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 経済協力開発機構(OECD)が発表した09年の国際学力テスト「PISA」で、初参加の上海が読解力、数学的リテラシー(活用力)、科学的リテラシーの全分野で1位に立った。しかもいずれの分野でも成績上位者が多く、下位者が極端に少ないのが特徴だ。日本のライバル・韓国も引き続き上位を維持している。世界トップの学力の背景を探った。

 「上海が参加すると聞いた時からトップになると思っていた」。中国の教育事情に詳しい有明教育芸術短大の日暮トモ子准教授(比較教育学)は、上海躍進の根拠として中国の教育政策の変化と上海の特殊事情を挙げる。

 中国では1980年代以降、「応試(おうし)教育」と呼ばれる受験偏重の知識詰め込み型教育が行われていた。だが、国際化が迫られる中、05年から実施された新教育課程基準において自ら考えて問題解決するPISA型の学力観に転換。日本の「総合的な学習」に相当する「総合実践活動」を導入して、科学実験や文献研究など実践的な学習を増やした。中でも上海市は国の基準に上乗せした「上海カリキュラム」と呼ばれる独自の取り組みで学力を伸ばしてきたという。

 もっとも、今回の結果をすべて、国や地方行政の成果だと結論づけるのは尚早だ。背景には過酷な受験競争とそれに伴う家庭の教育熱の高さも存在する。

 ◆狭き門を目指す

 上海市内の公立中学校に通う2年生の男子生徒(14)は、11月から週末も学校に通うようになった。学校側が、成績が良い生徒を対象に受験科目に特化した特訓授業を始めたためだ。母親(40)は「将来を思えば行かせない親はいない」と話す。

 中国政府は99年に大学定員数増に踏み切り、98年に108万人だった総定員は08年には600万人を超えた。とはいえ、2~3年制の専門学校を含めても高等教育への進学率は23%(08年)と、約8割の日本とは大きな開きがある。このため「狭き門を目指して小学校段階から競争する」(日暮准教授)状態は、「応試教育」から転換した今も解消できていない。しかも一人っ子政策で、子供にかける期待はヒートアップする。中でも経済力のある上海市民の教育熱は高く、高等教育への進学率は全国平均の2倍以上の50%を超す。

 ◆韓国も高止まり

 韓国も同様だ。韓国の教育を研究している京都大学の石川裕之助教(比較教育学)は「塾通いが盛んな韓国では、学力の高さは公教育だけではなく私教育の成果でもあると言われている」と話す。

 韓国は、日本以上に大学のブランド力が将来を左右する国で、小学生から塾通いが始まる。大学入試は思考力を問う論述問題が出るため、塾で対策を行い、結果的に、PISA型の学力も養われると石川助教は指摘する。

 一方で、中国でも韓国でも学力を苦にした子供の自殺や高い教育費負担、家庭の経済力による格差などが社会問題になっている。日暮准教授は「順位に振り回されすぎず、長期的なスパンで見る必要がある」と述べている。

 ◇日本の数学・科学、下げ止まり 読解力向上効果か

 上海やシンガポールには水をあけられたものの、日本の生徒の数学的リテラシーと科学的リテラシーの順位が下げ止まった主因は、読解力の向上にあると推測される。特に科学は、PISAを受けた生徒の週当たりの授業時間は148分と、OECD平均の202分を大きく下回っており、授業内容と順位との相関関係は薄い。

 こうした中でも順位を維持した理由として、文部科学省は「読解力向上によって設問理解度が増したこと」を挙げる。PISAは基礎学力ではなく、応用力を見ることが目的のため設問が複雑だ。解答を記入しなかった無解答率は、科学的リテラシーの設問では最高で23%に上ることからも、読解力が必要なことが分かる。

 09年度の指導要領改定では「脱ゆとり」志向が打ち出され、小中学校の算数・数学、理科の授業時間は16~33%増えている。文科省は「読解力の基礎ができ、さらに授業数が増加しているので、順位が上昇すると期待できる」としている。

 ◇男子が数学、女子は国語 得意科目ほぼ共通

 男子は数学、女子は国語が得意なのは世界共通--。調査では、日本の男女の得意科目の傾向が、世界的にも当てはまることが分かった。

 読解力の平均点は、日本では男子が501点、女子が540点で女子が39点上回った。ほかの64カ国・地域もすべて平均点は女子の方が高く、OECD平均では男子474点、女子513点と39点の差がついた。

 数学は日本の男子が534点、女子が524点。女子が男子を上回ったのはアルバニアやリトアニアなど10カ国・地域で、OECD平均も男子501点に対し女子490点だった。

 一方、数学的な発想が必要とされる科学は、意外にも女子の方が得意。日本は男子534点に対し女子545点で、参加国の43カ国・地域で女子が男子の得点を上回った。OECD平均は男女とも501点だった。


 ■読解力の問題例

 ◆在宅勤務に関する問題

 在宅勤務

 「未来のやりかた」

 想像してみてください。コンピューターや電話などの情報ハイウエーを使って、あなたの仕事をすべて片付けられる「在宅勤務(テレコミューティング)※」という働き方があったらどんなに素晴らしいことか。もう、ぎゅうぎゅう詰めのバスや電車でもみくちゃにされながら、何時間もかけて通勤する必要はありません。あなたの好きな場所で仕事ができます。そしていつでも都合のよいときに仕事ができるようになるでしょう。新しい仕事のチャンスがどれだけできるか! モリー

 「待ち受ける災難」

 通勤時間を短くして、それに費やされるエネルギーを節約するというのは、たしかによいことです。ですが、それは、公共交通機関をもっと便利にしたり、職場の近くに住むことができるようにしたりしてなしとげられるべきことです。だれもが在宅勤務する生活というのは野心的な考えではありますが、そうなったら、人々はますます自分のことだけしか考えなくなるでしょう。自分が社会の一員であるという感覚がますます失われてしまっても、本当にいいのでしょうか? リチャード

 ※「在宅勤務(テレコミューティング)」とは、1970年代初めにジャック・ニルズがつくった言葉で、会社から離れた場所(たとえば家など)でコンピューターを使って仕事をし、電話回線を通じてデータや文書を会社に送るという勤務形態を表した言葉です。

 上の「在宅勤務」をよく読んで、以下の問に答えてください。

 問1

 「未来のやりかた」と「待ち受ける災難」という二つの文章はどのような関係ですか。

A 違った根拠を用いて、同じ結論に至っている

B 同じ文体で書かれているが、まったく違った話題について論じている

C 同じ考えを述べているが、違った結論に至っている

D 同じ話題について、対立した考えを述べている

 問2

 在宅勤務するのが難しい種類の仕事を、一つあげてください。また、そのように考えた理由も説明してください。

 問3

 モリーとリチャードの両者が同じ考えなのは、次のうち、どの点についてですか。

A 人々が働きたいだけの時間、働けるようにすべきである

B 人々にとって、通勤に時間がかかりすぎるのはよくない

C 在宅勤務は、だれにも向いているわけではない

D 人間関係をつくることは仕事のもっとも重要な部分である

 <読解力の解答>

問1 D

正答率  OECD平均52.3%、日本69.5%

無解答率 OECD平均3.5%、日本2.4%

問2 仕事の種類を一つあげ、その種類の仕事をする人が在宅勤務できない理由を適切に説明している。例えば「建設業。別の場所から木材やれんがをあつかうのは難しい」など。

正答率  OECD平均56.2%、日本66.5%

無解答率 OECD平均15.0%、日本23.6%

問3 B

正答率  OECD平均60.1%、日本73.9%

無解答率 OECD平均3.6%、日本1.8%

 ■数学的リテラシーの問題例

 ◆為替レートに関する問題(03年調査問題)

 為替レート

 シンガポール在住のメイリンさんは、交換留学生として3カ月間、南アフリカに留学する準備を進めています。彼女は、いくらかのシンガポールドル(SGD)を南アフリカ・ランド(ZAR)に両替する必要があります。

 問1

 メイリンさんが調べたところ、シンガポールドルと南アフリカ・ランドの為替レートは次のとおりでした。

 1SGD=4.2ZAR

 メイリンさんは、この為替レートで、3000シンガポールドルを南アフリカ・ランドに両替しました。

 メイリンさんは南アフリカ・ランドをいくら受け取りましたか。

 問2

 3カ月後にシンガポールに戻る時点で、メイリンさんの手持ちのお金は3900ZARでした。彼女は、これをシンガポールドルに両替しましたが、為替レートは次のように変わっていました。

 1SGD=4.0ZAR

 メイリンさんはシンガポールドルをいくら受け取りましたか。

 問3

 この3カ月の間に、為替レートは、1SGDにつき4.2ZARから4.0ZARに変わりました。

 現在、為替レートが4.2ZARではなく4.0ZARになったことは、メイリンさんが南アフリカ・ランドをシンガポールドルに両替するとき、彼女にとって好都合でしたか。答えの理由も記入してください。

 <数学的リテラシーの解答>

問1 12600ZAR(単位不要)

問2 975SGD(単位不要)

問3 「はい」で、正しい説明がなされている。例えば「為替レートが下がったことにより、メイリンは手持ちの南アフリカ・ランドに対して、より多くのシンガポールドルを受け取った」など。

 ■科学的リテラシーの問題例

 ◆運動に関する問題(06年調査問題)

 運動

 定期的に無理のない運動をすることは、健康にとって良いことです。

 問1

 定期的な運動をすることの良い点は何ですか。それぞれについて「はい」または「いいえ」に○をつけてください。

 運動は心臓など循環系の病気を予防するのに役立つ。 はい/いいえ

 運動は健康的な食事をすることにつながる。はい/いいえ

 運動は太りすぎにならないことに役立つ。はい/いいえ

 問2

 筋肉が運動するときに何が起こりますか。それぞれについて「はい」または「いいえ」に○をつけてください。

 筋肉への血液の流れが増える。はい/いいえ

 筋肉で脂肪が形成される。はい/いいえ

 問3

 休んでいる時に比べ、運動をしている時にはより呼吸が荒くなるのはなぜですか。

 <科学的リテラシーの解答>

問1 (順に)はい いいえ はい

問2 (順に)はい いいえ

問3 体内に増加した二酸化炭素の量を減らすことと、体内により多くの酸素を取り込むことの、両方もしくはいずれかを述べている。例えば「運動すると、体はより多くの酸素を必要とし、より多くの二酸化炭素を生み出す。呼吸がこの役を行っている」など。

 注)科学的リテラシーと数学的リテラシーの問題は、次回以降使用するため全問題が非公開だった。このため、過去の問題で公開された分を例として示し、正答率や無解答率は示さなかった。読解力の問題は、今回の公開分を例示した。


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