忍者ブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 発達障害を持つ子が専門指導を受けられる特別支援教育が今年度から、各学校で始まった。図画工作や軽い運動による機能訓練を行い、学外から子どもを支える市民団体の活動も広がりつつある。

 砂が詰まった箱にソロソロと手を伸ばし、約10分間、中をまさぐり続ける。中1の男子生徒に与えられた課題は、砂に埋まった小さなボールを10個探し出すことだ。

 ◆作業療法で適応力

 NPO法人「発達共助連」(東京都杉並区)は発達障害(*注)の小中学生に放課後、図画工作や軽い運動など五感を使うプログラムを提供。バランスのとれた感覚を養う「作業療法」で、社会適応能力を高めるのが狙いだ。砂山と格闘していた男子生徒はアスぺルガー症候群。人から触られることが苦手で、触られるとパニックに陥りやすい。週1度の作業療法で砂や水に積極的に触れ、防衛反応を和らげるトレーニングを積んでいる。作業療法士の仲本政史さんは、「あと2個だよ」と時折声をかけ励ます。

 男子生徒はこの後、タイルを切り張りして絵を作ったり、トランポリンで跳びながら箱にボールを投げ入れる訓練をこなした。

 仲本さんはかつて精神科病院に勤めていた。統合失調症の患者をみるうち、「発達障害の子が十分なケアを受けられず幻想や妄想を生じたケースがあるのでは」と感じるようになり、今の職場に移った。「発達障害の子どもの多くに感覚の機能障害がある。動くものを目で追うのが苦手だったり、手先が不器用な子もおり、身体機能を向上させるため図画工作やボール遊びを取り入れている」という。

 ◆望まれる柔軟対応

 共助連ではスタッフが学校に出向き、担任に子どもの特徴を伝える「学校訪問」支援も行っている。「言葉を額面どおりにしか理解できない」「きつくしかると逆効果」などと配慮の必要性を強調し、学びやすい環境づくりに尽力する。

 しかし、学校の理解・協力が得られないこともある。アスペルガー症候群の男子中学生は書くのが苦手なため、「定期テストは筆記でなく口頭で行ってほしい」と頼んだが、「特別扱いは難しい」と断られたという。学校訪問にかかわる心理士の山口安澄さんは「形式上の平等にこだわる学校教育で、苦しむ子もいる。特性を理解して柔軟な対応をしてほしい」と訴える。

 共助連ではまた、DS(ディベロップメンタル・サポーター)と呼ばれる大学生を家庭に派遣して子どもの遊び相手をしたり、保護者を集めた「しゃべろう会」を定期的に開き、当事者とその家族を支える。代表理事の川戸康暢さんは「発達障害は、親の育て方や先生の指導が悪くて起こるのではない。認知が広まり、特別な目で見ることもなく普通に受け入れられるようになれば」と話す。

 高機能自閉症の男子中学生を持つ母親は「親が担任にお願いごとをしても聞いてもらえないこともあるが専門家の第三者が助言してくれる学校訪問はありがたい」と話す。

 ◆理解者と居場所

 注意欠陥多動性障害(ADHD)の小学5年生男児は以前、よく友達をけっていた。緊張が絶えず教室外でも鉛筆を握りしめていたが、学校以外の居場所と理解者ができて、鉛筆を手放したという。男児の母は「息子はDSのお兄さんとも仲が良く、遊んだ後は機嫌がよい。家族3人で孤立していた昔はつらかった」と振り返る。

 学校以外の支援としてはこのほか、日本YMCA(キリスト教青年会)同盟が全国40カ所以上で、発達障害の幼児や小中学生を集めたサポート教室を放課後、開いている。コミュニケーションの苦手な子に配慮し、ロールプレーで他人の気持ちを推し量る訓練をしたり、水泳教室や野外キャンプを開いたりして、やる気や自信をはぐくむ手助けをしている。

 ◇参加少ない通級クラス、抵抗感や負担軽減が課題

 発達障害を持つ子は1クラスに1~2人いるとされる。文部科学省の全国調査(02年)では「学習や行動上の困難がある」子が6・3%に上り、30人学級なら1クラスに1・8人在籍している計算になる。

 支援の必要性が認められると、学習障害(LD)やADHDの子は普通学級に加え「通級クラス」と呼ばれる専門の指導教室に通う。1クラス10人程度で教科補習のほか自己紹介をしたり、手芸や園芸をして創作力や表現力を培う。文科省によると、通級クラスを利用する発達障害の子どもは小学校6228人、中学校666人の計6894人(06年度)に上る。小学校に比べ、中学校は通級クラスに通う生徒が極端に少ない。文科省特別支援教育課は「思春期を迎え、特別視されることを嫌う傾向がある」と分析し、抵抗感の解消が必要だとみている。

 通級クラスは全学校に配置されているわけではなく、6割以上の生徒は他校に通い指導を受ける。その通学の負担をなくそうと独自の支援策を講じる自治体もある。

 東京都渋谷区は今年、主に発達障害の子を対象とした「特別支援教室」を全28小中学校に作った。教員免許を持つ非常勤の指導員も全校に1人ずつ配置し、授業に集中できなかったり、学習が遅れがちな子どもを支援している。指導には保護者の同意と申し込みが必要で、識者でつくる専門委員会で個々のケースを検討し、支援計画を練る。

 区教委は「支援が必要な子どもを1人の担任が抱え込むのではなく、学校全体で環境整備する必要がある」と話す。100人の申し込みがあったが、区全体のニーズは倍以上ともみられ、ケアの重要性を広めることが課題だ。

 ◇特性よく知り、きめ細かい対応を 教室や教員配置に配慮必要--東京学芸大・上野一彦教授

 特別支援教育の実態に詳しい東京学芸大の上野一彦教授に、問題点などを聞いた。

 学習面で「落ちこぼれ」やすいと言われる発達障害の子どもだが、学校が「落ちこぼし」を作っているのが現状。授業が理解できなかったり、良好な人間関係が作れなかったりして苦しむ子に目を向けなくてはいけない。

 現在の問題点は、「通級による指導」教室や担当する先生の配置が十分でないこと。このためLDやADHDなどの生徒が不登校に陥ることも少なくない。また高校は義務教育でなく、退学処分もあるので、発達障害の生徒は切り捨てられやすい。教師の理解も遅れ、言葉の裏を読み取れないアスペルガー症候群などの特性を「態度が悪い」と見てしまう教員もいる。いま最も支援が遅れているのは私立の進学高かもしれない。

 今年度から特別支援教育が始まったが、支援の教室はどこの学校にもあるわけではない。他校に通う場合は、送り迎えする保護者や子ども自身の負担は重い。例えば隣接する学校同士で群を作り、ある学校には情緒的な支援を、別の学校は学習的な支援をというように専門を分けるのも一案。学校群の中から、入学する学校を選べるシステムにすれば、だれしも自校通級でき、負担は軽くなるだろう。また、子どもが他校に通うかわりに、先生が巡回して指導するという形態もある。

 文科省の調査によると、支援の必要な子を実態把握する「校内委員会」の組織率は、小中学校で9割近くにのぼる。組織率は高くみえるが問題は、委員会が、課題を持つ一人一人の子に目を向け、実際の支援を行っているかどうかだ。機能しなければ委員会はただの飾りになってしまう。

 知的に遅れのない発達障害の子を抱える先生へのアドバイスとしては、まず障害の特性を理解すること。少人数指導や複数教員による指導を取り入れ、必要ならば支援の教室への通級を勧めることを考えるべきだろう。

 *注

 主な発達障害と特徴には次のようなものがある。▽アスペルガー症候群=他人の気持ちを推し量ることが苦手▽高機能自閉症=対人関係を築くのが苦手▽注意欠陥多動性障害(ADHD)=衝動的で落ち着かない▽学習障害(LD)=読み書きが不得意。



PR
この記事にコメントする
Name:
Title:
Mail:
URL:
Color:
Comment:
pass: emoji:Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
カテゴリー
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析
忍者ブログ [PR]
Copyright(C) 教育のニュースとか All Rights Reserved